この記事では、高等学校卒業程度認定試験の基本的な仕組み、受験することで得られるメリット、試験科目や学習の進め方、そして合格後の多様な進路に至るまで、分かりやすく解説していきます。
申し込み方法や学習範囲、合格者の扱いなどの分かりづらい部分について解説することはもちろん、合格することによって得られる意外なメリットについても解説していきますので、モチベーションアップに役立てていただければ幸いです。
高等学校卒業程度認定試験とは?
この試験はさまざまな理由で高等学校を卒業できなかった方々を対象に、高等学校卒業者と同じ学力を有していることを認定するための試験です。文部科学省が主催しており、通称、高卒認定試験、高認試験などと呼ばれています。かつては、大学入学資格検定、大検などとも呼ばれていました。
試験合格後のメリット
この試験は、合格者が進学、就職、資格取得などで高等学校卒業者と同様に扱われることを目的として開催されています。
合格者は大学、短大、専門学校や一部の資格試験などへの受験資格が与えられるほか、就職、転職にも活用することができます。
この点について、進学、就職、資格、奨学金という4つの観点で解説していきます。
メリットその1:進学に利用できる。
これについては多くの人が予想する通りだと思います。
大学や短大はもちろんですが、一部の専門学校も高校卒業を入学の条件に含めています。
単純に進学したい方以外にも、専門学校の通信教育課程などで働きながらスキルを身につけたい方にとっても、メリットがある制度といえます。
メリットその2:就職や転職で有利になる
ざっくり申し上げると、多くの場合で「応募資格:高卒以上」の求人に応募できるようになります。
文部科学省は、高認試験の合格者が就職や転職の際に高校卒業者と同等に扱われるように経済界に働きかけています。
法的な強制力があるわけでは無いので「絶対に高卒として扱われる」という保証はできないのですが、少なくとも応募することを咎められたりはしません。
詳細については以下の記事で解説しておりますので、ご興味があればご一読ください。

メリットその3:資格取得に有利
高認試験に合格することで資格取得に有利になるパターンは、以下の2つがあります。
1. 中卒のままでは取得できない資格を取得できる
これはそのままの意味ですね。
受験資格に「高卒もしくは同等の学力を有するもの)」と明記されている試験を受けられるようになります。
例として、
- 幼稚園教員
- 食品衛生管理者
などが挙げられます。
2. 資格取得に必要な実務経験の年数が短縮される
中卒のままでも取得可能ですが、高卒以上と比べて大幅に長い経験年数が必要となる資格のことを指しています。
例として、
- ボイラー・タービン主任技術者(業務内容によって変わるが中卒者は高卒者の約1.5〜2倍の年数が必要)
- ダム水路主任技術者(第1種の場合、中卒者が”20年”以上必要なところ高卒者は”10年以上”に短縮)
などが挙げられます。
メリットその4:奨学金などの支援制度を利用できる場合がある
先にお断りしておきますが、高認試験に合格する“だけ”で支援制度を利用できるわけではありません。制度ごとにそれぞれ利用条件が設定されておりますので、それら全てに該当する必要があります。
しかし、条件に当てはまれば大学進学の他にも、資格取得のための専門学校(通信教育課程もOK)に通うこともできます。進学するつもりはないが、転職や出世に有利な資格を取りたい、という方にとっては有益な情報となるのではないでしょうか。
一例として「高等教育の修学支援新制度」の利用条件について掲載します。
- 高等教育の修学支援新制度
-
入学金や授業料が免除・減免されるほか、給付型の奨学金(返済不要な奨学金)を得ることもできます。
制度を利用するための条件として、収入や資産、学ぶ意欲の有無などが問われるのですが、年齢の部分についてはすこし特殊な条件があります。
要約すると、高認試験の合格者がこの制度を利用する場合、16歳になる年度の初日から5年以内(20歳になる年度まで)に高認試験に合格して、合格から2年以内に進学した人がこの制度を利用できます。
そして、5年を経過した人であっても、経過後から奨学金申請までの間、引き続き毎年度高認試験を受け続けていれば対象になると言うことです。
つまり20〜21歳の方は、高認試験を受験するタイミング次第では、まだギリギリ制度を利用できる可能性があります。
さらに、極論ではありますが毎年度試験を受け続けていれば、理論上は何歳になってもこの制度を利用できると言うことになります。
毎年度試験を受け続けることは大変ですが、ご自身の目標への熱意と照らし合わせて、チャレンジする価値はあるのではないでしょうか。
たった1年度、試験を受けなかったために奨学金が得られない、というのは非常にもったいない。
利用条件全てに当てはまる方は受かる自信がなくても、とりあえず高認試験を受けることをオススメします。
なお、この制度を利用するご予定のある方は、必ずご自身で公式の情報をご確認ください。以下のリンク先に奨学金相談センターの電話番号が掲載されておりますので、そちらに問い合わせを行うのも良いかと思います。
このページの情報は公式発表の情報を精査し、かつ実際に問い合わせを行うなどの確認をした上で掲載しておりますが、利用される方個人個人のご事情によって利用可否の判断が大きく変わるものだからです。
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)奨学金に関するお問い合わせ
受験資格と出願から合格までの流れ
ここからは高認試験の具体的な仕組みについて解説していきます。
まずは受験資格、出願方法、合格までの流れについて解説します。
受験資格
16歳になる年度から受験できます。
補足ですが、18歳未満の方が合格した場合は、満18歳になり次第合格者として扱われる、という規則もありますのでご注意ください。
試験のスケジュール
高認試験は毎年2回、8月と11月に開催されます。
出願受付開始から試験当日、合格発表までの大まかなスケジュールは以下の通りです。
第一回試験(8月の試験) | 第二回試験(11月の試験) | |
---|---|---|
受験案内 | 4月上旬ごろ | 7月中旬ごろ |
出願期間 | 4月上旬〜5月半ばごろまで | 7月中旬ごろ〜9月中旬ごろまで |
受験票発送 | 6月下旬ごろ | 10月下旬ごろ |
試験日 | 8月上旬ごろ | 11月上旬ごろ |
結果通知 | 試験の約1ヶ月後を目安に発送 |
受験案内・出願資料
入手方法は大きく分けて2通りです。
1. パソコンやスマートフォンで請求をされる場合
「テレメール」というシステムで資料請求できます。
有料ですが、非常に安いです。
送料込みで215円(速達の場合は700円)に、支払い手数料がプラスされます。手数料は支払い方法によって変わりますが、30円〜120円程度です。携帯キャリア払いやPayPayなどで支払うことができます。
後述の通り、直接受け取りに行くこともできますが、電車賃などを考えるとこちらで資料請求した方が安い場合も多いのではないでしょうか。
思い立ったらすぐに資料請求した方が、忘れてしまうリスクも下がるかと思いますので、個人的にはこちらから資料請求されることをお勧めします。
出願時期以外は請求できませんが、こちらから詳細をご確認いただけます。
2. 直接受け取りに行く場合
各都道府県ごとに配布場所が指定されます。
多くの場合、都道府県庁や教育委員会の事務所や、若者サポートステーションなどが配布場所として指定されるようです。
詳細については出願時期に合わせて発表されますので、文部科学省のホームページを定期的にチェックしてください。
試験会場
都道府県ごとに1ヶ所(全47ヶ所)の会場が設置されます。
居住地以外の会場で受験することも可能です。
筆者は東京都在住ですが、よくよく調べると東京都の会場よりも神奈川県の会場の方が近く、申し込みした後に後悔しました。
試験日当日の移動時間は短いに越したことはありませんので、近隣の都道府県の会場も含めてご確認されると良いでしょう。
試験会場も詳細については出願時期に合わせて発表されますので、文部科学省のホームページを定期的にチェックしてください。
試験科目・合格要件
以下の科目のうち、8〜9科目に合格する必要があります。
理科以外は全て必修なので深く考える必要はありませんが、理科は「科学と人間生活」を含めるか否かで科目数が変わってきます。
なお、一度に全ての科目に合格する必要はありません。
極端な話、1科目ずつ合格していき、8〜9回かけて全ての科目に合格する。という進め方も可能なのです。
このほか、受験科目自体を免除する仕組みもあります。詳しくは後ほど「科目の免除について」で解説してます。
教科 | 科目 | 合格要件 |
---|---|---|
国語 | 国語 | 必修 |
地理 歴史 | 地理 | 必修 |
歴史 | 必修 | |
公民 | 公共 | 必修 |
数学 | 数学 | 必修 |
理科 | 科学と⼈間⽣活 | 次のうち、いずれかの組み合わせで科目を選択。 ①「科学と人間生活」と「〇〇基礎」を1科目。合計2科目 ②「〇〇基礎」を3科目。合計3科目。 |
物理基礎 | ||
化学基礎 | ||
⽣物基礎 | ||
地学基礎 | ||
外国語 | 英語 | 必修 |
なお、この情報は今年度、2025年度(令和7年度)までの情報です。
来年の2026年度(令和8年度)からは、上記に加えて「情報」という科目が追加されます。単純に勉強する量が増えることになりますので、なるべく今年度中に合格することをオススメします。
その他、合格までに必要な勉強時間についても以下の記事でまとめております。
筆者は8科目全てを受験したのですが、勉強の際に時間を記録していました。学習スケジュールを立てる上でご参考いただけるのではないでしょうか。

科目の免除について
高認試験には、受験科目を免除する仕組みがあります。
大きく分けて、以下の三つに分かれます。
- 高等学校や高等専門学校に通って得た単位を利用して免除する場合。
- 英検などの能力検定を利用して免除する場合。
- 大学入学資格検定(大検。高認試験の前身となる制度)の合格科目によって免除する場合。
2と3についてはシンプルですが、1については、「学校に通っていたのはどれくらい前か?」によって細かく変わってきます。
あくまで目安ですが、高校に1年以上通って通常通り単位を取得している方は、ほとんどの科目を免除される可能性があります。ここで紹介するには長くなり過ぎてしまうので、詳しくは文部科学省が発表している免除要件のページをご確認ください。
皆様が非常に気になるポイントだと思いますので、別の機会に詳しくまとめたいと思います。
最後に注意点ですが、全ての科目の免除を受けて、合格者となることはできません。
最低1科目以上を受験する必要がありますので、ご自身の得意教科を1科目選んで受験されると良いでしょう。
合格点について
実は、文部科学省は合格点について公表していません。試験の難易度や平均点によって変動するようですが、一般的に40〜50点程度が合格ラインだと言われています。
なお、合格点は公表されていないのですが、合格成績の評価がA〜Cまで設定されており、C評価(一番低い評価)の評価基準が「合格最低点〜59点まで」とされています。
このことから、確実に大丈夫だと言えるラインは59点以上だと予想できるでしょう。
合格率について
試験全体の合格率は40〜50%程度とされています。
こうして見ると合格率が低く感じますが、高認試験は1科目ずつ合格科目を増やしていくことができる試験です。
1科目だけでも合格できた人の割合は、毎回約90%程度とされています。
つまり、1科目ごとの難しさは決して高くない。それどころか、比較的容易な部類に入るでしょう。
出題範囲
目安としては1年生〜2年生が習う範囲ですが、厳密には「何年生の範囲」とは言えないので、勉強する際には注意が必要です。
高認試験の出題範囲は、教科の科目単位で決まっています。
たとえば高校で「国語」の授業をする場合、「現代の国語」、「言語文化」、「倫理国語」、「文学国語」……などなど、さまざまな科目に分かれていますが、高認試験の「国語」の出題範囲は「現代の国語」と「言語文化」の2点(※古文・漢文を含む)となります。。
そして、一般的に「現代の国語」と「言語文化」は高校一年生のうちに習う場合が多い(学校による)ので、高認試験の出題範囲は高校1〜2年生の範囲だと言われているのです。
「でも、要は高校1年生〜2年生の範囲で勉強すればいいってことでしょ?」と思われるかもしれませんが、効率的な勉強の進め方に関わる情報ですので、詳しくは以下の記事をご参照いただければと思います。

受験料
受験する科目の数によって金額が変わります。
科目数 | 受験料 |
---|---|
1科目〜3科目 | 4,500円 |
4科目〜6科目 | 6,500円 |
7科目〜9科目 | 8,500円 |
もし不合格になってしまった場合、再受験の際には同じ金額が必要となります。
また、1科目だけ受験する場合であっても3科目受験する場合と同じく4,500円がかかります。
制度の特徴として、1科目ずつ合格科目を増やしていくという進め方が可能なのですが、その場合はご予算に余裕を持っていただいた方が良いかと思います。
合格・不合格の後の流れ
試験1ヶ月後を目安に、合格・不合格どちらの場合も試験結果は郵送にて通知されます。
合格の場合
合格後の進路に合わせて、合格証明書や合格成績証明書の交付を請求しましょう。
請求を行ってから1週間を目安に交付されますが、時期によっては遅れる場合もあります。進学や奨学金の申込みのスケジュールに合わせて、余裕を持って交付の請求を行ってください。
なお、全科目合格者であっても、18歳未満の場合は合格証明書や合格成績証明書の交付ができません。
18歳になる年度までは交付できませんのでご注意ください。
不合格(科目合格)の場合
残念ながら不合格となった場合でも、合格点に達した科目が1科目でもあれば、次の試験でその科目は免除されます。
この場合は科目合格証明書の交付を請求し、次の試験に備えましょう。
もし仮に1科目も合格点に達することができなかった場合は、新規に受験する場合と同じ手順で再度申し込みをすることになります。
証明書の交付方法
試験結果の通知の際に、同時に申請用紙が送られてきます。
申請用紙を紛失した場合などは、以下のサイトから用紙をダウンロードすることができますので、印刷して使用してください。
まとめ
以上、高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験/高認試験)の基本的な仕組みやメリットについて解説してまいりました。
基本的に難しくない試験であり、合格によるメリットも非常に大きい試験ですので、ぜひ挑戦して見ることをお勧めします。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。何かのご参考となれば幸いです。
このページは令和7年度、2025年5月24日に最終更新を行いました。
掲載にあたって、主に以下の情報を参考にしております。情報の精査に努めた上で掲載をしておりますが、各制度を利用の際はご自身にて直接ご確認くださいますよう、よろしくお願いいたします。
文部科学省|高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定)
文部科学省|高等教育の修学支援新制度 特設ページ(大学生・高校生・保護者向け)
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厚生労働省|食品衛生管理者